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福岡県労働委員会委員コラム
福岡県労働委員会委員のコラムを連載しています。
投稿日 | タイトル | 投稿委員 | ||
令和7年9月1日 | 命令と和解 | 第44期会長 | 上田 竹志 | |
令和7年8月1日 | 労働組合法の労働者って誰のこと? | 使用者委員 | 熊手 艶子 | |
令和7年7月1日 | 働く人の声を届けるために | 労働者委員 | 古賀 栄一 | |
令和7年6月4日 | 福岡県労働委員会がPR動画を作りました | 公益委員 | 渡部 有紀 | |
令和7年5月1日 | 労働委員会とは?:健在な労使関係を築く「羅針盤」 | 使用者委員 | 高松 雄太 | |
令和7年4月1日 | 組合と力を合わせて風通しの良い職場を作りましょう | 労働者委員 | 溝田 由美子 | |
令和7年3月1日 |
ロウキ(労働基準監督署)より、サイバンショ(裁判所)に近い? ロウイ(労働委員会)の役割って何? |
公益委員 | 千綿 俊一郎 | |
令和7年2月1日 | 労働委員会を知っていただきたい | 使用者委員 | 丸山 武子 | |
令和7年1月1日 | 新年を迎えるにあたり | 労働者委員 | 西 央人 | |
令和6年12月1日 | 対話の時代のお手伝い | 公益委員 | 丸谷 浩介 | |
令和6年11月1日 | 労使関係の構築について | 使用者委員 | 小川 浩二 | |
令和6年10月1日 | 快適な職場環境づくりは労使双方にとってメリット | 労働者委員 | 藤田 桂三 | |
令和6年9月1日 | 労働委員会ってどんなところ? | 公益委員 | 服部 博之 | |
令和6年8月1日 | 使用者と労働委員会 | 使用者委員 | 内場 千晶 | |
令和6年7月1日 | 労使紛争と労働組合の役割 | 労働者委員 | 桑原 忠志 | |
令和6年6月1日 | 労使関係におけるエチケット | 公益委員 | 所 浩代 | |
令和6年5月1日 | 和解による早期解決 | 使用者委員 | 吉村 達也 | |
令和6年4月1日 | 労働者の権利と労働委員会 | 労働者委員 | 金光 千春 | |
第7回 | 令和6年3月1日 |
使用者と労働者の利害 |
公益委員 | 大坪 稔 |
第6回 | 令和6年2月7日 | 括弧に入れること・括弧を外すこと |
使用者委員 |
中村 年孝 |
令和6年1月5日 | 労使間トラブルの円満な解決を目指して | 労働者委員 | 高田 章男 | |
第4回 | 令和5年12月27日 | 継続的で前向きな労使関係の構築に向けて | 第44期会長 |
上田 竹志 |
令和5年11月27日 | 中小企業経営者と労働問題 | 使用者委員 | 熊手 艶子 | |
第2回 | 令和5年10月27日 |
労働組合法は働く人たちの味方 |
労働者委員 | 溝田 由美子 |
令和5年3月1日 | 御挨拶 | 第43期会長 | 德永 響 |
第25回
「命令と和解」
会長 上田 竹志
労働委員会が行う審査手続には、手続終了の方法として、主に「命令」(労働組合法27条の12)と「和解」(同法27条の14)の2種類があります。 命令では、両当事者が主張した事実を、証拠に基づいて認定し、認定した事実に基づいて、申立人である労働組合が主張する不当労働行為(労組法7条)が認められるか、認められるとしたらどのような救済を命じるかを、労働委員会が判断します。裁判における判決と同じようなものです。 和解は、労働委員会の関与や勧めに応じて、両当事者が一定の紛争解決内容について合意をすることです。その基礎には、民法上の和解契約(民法695条)があります。裁判でも、訴訟上の和解という、やはり同じような制度があります。 さて、問題は、労働紛争の解決にとって、命令と和解のどちらが望ましいか、労働委員会は、どちらに比重を置いて手続を進めるべきか、ということです。 一般的に見れば、和解の方が、紛争解決にとっては望ましいように思えます。命令では、「申立人の主張する、過去に生じたとされる行為が、不当労働行為と評価されるかされないか」という、過去志向の判断を行います。当事者間の、これからの労使関係をどのように構築してゆくべきかという、一番大事な未来志向の問題を、直接に扱うことはできません。これに対して、和解は、申立ての内容に縛られることなく、自由に和解内容を提案することができます。今後の団体交渉のルールや、組合員のこれからの処遇の詳細なども、和解条項に含めることができます。また、和解は両当事者の合意を本質的な要素に含むので、これからの労使関係を健全に構築するという意味でも、一定の合意点を見出すことは望ましいでしょう。 では、「和解が命令よりも優先される」という結論で話が終わるかというと、必ずしもそうではありません。私は普段、大学で民事訴訟法という裁判のルールを研究していますが、裁判の世界では、「和解が判決よりも優先される」とはあまり言わないのです。なぜでしょうか。 まず、和解はいつでもできます。当事者は、手続の段階に関わらず、自主交渉を進めて合意に達すれば、和解ないし手続の取下げによって、紛争を解決できます。第三者である労働委員会は、その支援を行いますが、和解の本質は当事者の意思にあるので、和解を強制することはできません。和解の主役は労働委員会ではなく、当事者です。 また、労働委員会の目から見て、望ましい和解内容があったとしましょう。それは、中立な第三者の目から判断している点で、より冷静で穏当な内容かもしれませんが、それが本当に当事者にとって良い内容かは、客観的に決められるものではありません。社会的な営みとは、正解がないところで、過去と未来を結びつける決断をその都度行うものです。和解の主役は、やはり労働委員会ではなく、当事者なのです。 こう考えると、労働委員会が当事者に和解を勧める際には、一定の限界があるように思えます。申立人である労働組合は、命令を求めて審査手続の申立てを行います(和解だけが目的であれば、あっせん申立てを行うでしょう)。しかし、「当事者が命令を求めているのに、労働委員会が和解を勧めてきて、いつまでたっても命令をもらえない」という事態は、あまり望ましくないようにも思えます。 以上の問題は、人によってかなり意見が異なるのですが(全国的には、和解を重視する傾向にあるようです)、福岡県労働委員会は、集中的な和解の勧めと並行して、審理スケジュールを定めて迅速な命令の発出を目指すことで、命令と和解のバランスを取っていると理解しています。もちろん、福岡県労働委員会の元で和解が成立すれば、一番望ましいので、公益委員、労働者委員及び使用者委員は、その支援に尽力します。しかし、上記のバランシングにより、福岡県労働委員会は、全国の中でも特に手続の迅速化に成功した例となっています。 |